心に残った言葉・表現集

自分の中で良くも悪くも響いた言葉集

会話文

夏の裁断/島本理生

「カエザルのものはカエザルに返せ、て知ってる?作家だから聖書くらい読んでるよね」 と言った。すぐには意味が分からなかった。 「どうせ時間も労力も費やすなら、せめて、本人に返そうか」 「どういう意味ですか?」 と堪りかねてきいた。彼は澱みなく答…

夏の裁断/島本理生

「そうじゃなくて。だって自炊って」 と言いかけて。しょせん母は向こう側の人なのだ、と実感した。自炊と聞いただけで生理的な嫌悪がまったく湧かないなんて、私には信じられなかった。 自炊ということは。 本を、切るのだ。 ばっさり裁断して、データとし…

運命の人はどこですか?/彩瀬まるのかなしい食べもの

意味が分からず、せめてなにか読み取れるものはないかと横顔を見つめる。灯は少し間を置いて、唇の端を柔らかく崩した。 「そうっと黙る感じが、透さんだね」 「そうかな」 「あなたほど、まじめに誰かの話を聞く人に、会ったことない」

運命の人はどこですか?/彩瀬まるのかなしい食べもの

「それでも俺は、これを、かなしい食べものだって思う。だからいつかお前が、どん底だけを信じるんでなく、他の、もっと幸せなものに確かさを感じて、このパンを食わずにやっていける日がくればいいって、願うよ」

恋の聖地: そこは、最後の恋に出会う場所。/瀧羽麻子のトキちゃん

「別に、ひっぱってかなくたっていいじゃないの」 と、祖母は言った。 「どんなに強く見えたって、好きにやってるように思えたって、誰だって動けなくなるときはあるもんだよ。そのときに、そばにいてあげられたらいいんだよ。それだけでだいぶ助かる」

恋の聖地: そこは、最後の恋に出会う場所。/三浦しをんの聖域の火

「『永遠』ということはありませんよ。ひとも動物も木も、いつか死ぬ」

恋の聖地: そこは、最後の恋に出会う場所。/窪美澄のたゆたうひかり

「夢……見てた」ぼんやりした声で言う。 「おまえ、白いワンピースよく来てただろ。小さなころ。母さんがミシンで縫った。それ着た小さなおまえがそこにいるのかと思った」 そう言いながら、私が来ているワンピースを指さす。水色の薄いストライプが入ってい…

恋の聖地: そこは、最後の恋に出会う場所。/千早茜のしらかんば

「でも、叔父さんが言ってましたよ。誰かに惚れるってことは馬鹿みたいなことだって。でも、僕は馬鹿みたいなことすらしたことがないので、少し羨ましいです」 「私はもうこんな馬鹿みたいなことはこりごり。でも、こりごりって思いながら、またどうせ誰か好…

恋の聖地: そこは、最後の恋に出会う場所。/大沼紀子のたわいもな祈り

「なんだか、よくわかんないけどさ。重い荷物を背負ったままでも、きっと大丈夫だよ。」