会話文
「カエザルのものはカエザルに返せ、て知ってる?作家だから聖書くらい読んでるよね」 と言った。すぐには意味が分からなかった。 「どうせ時間も労力も費やすなら、せめて、本人に返そうか」 「どういう意味ですか?」 と堪りかねてきいた。彼は澱みなく答…
「そうじゃなくて。だって自炊って」 と言いかけて。しょせん母は向こう側の人なのだ、と実感した。自炊と聞いただけで生理的な嫌悪がまったく湧かないなんて、私には信じられなかった。 自炊ということは。 本を、切るのだ。 ばっさり裁断して、データとし…
意味が分からず、せめてなにか読み取れるものはないかと横顔を見つめる。灯は少し間を置いて、唇の端を柔らかく崩した。 「そうっと黙る感じが、透さんだね」 「そうかな」 「あなたほど、まじめに誰かの話を聞く人に、会ったことない」
「それでも俺は、これを、かなしい食べものだって思う。だからいつかお前が、どん底だけを信じるんでなく、他の、もっと幸せなものに確かさを感じて、このパンを食わずにやっていける日がくればいいって、願うよ」
「別に、ひっぱってかなくたっていいじゃないの」 と、祖母は言った。 「どんなに強く見えたって、好きにやってるように思えたって、誰だって動けなくなるときはあるもんだよ。そのときに、そばにいてあげられたらいいんだよ。それだけでだいぶ助かる」
「『永遠』ということはありませんよ。ひとも動物も木も、いつか死ぬ」
「夢……見てた」ぼんやりした声で言う。 「おまえ、白いワンピースよく来てただろ。小さなころ。母さんがミシンで縫った。それ着た小さなおまえがそこにいるのかと思った」 そう言いながら、私が来ているワンピースを指さす。水色の薄いストライプが入ってい…
「でも、叔父さんが言ってましたよ。誰かに惚れるってことは馬鹿みたいなことだって。でも、僕は馬鹿みたいなことすらしたことがないので、少し羨ましいです」 「私はもうこんな馬鹿みたいなことはこりごり。でも、こりごりって思いながら、またどうせ誰か好…
「なんだか、よくわかんないけどさ。重い荷物を背負ったままでも、きっと大丈夫だよ。」