心に残った言葉・表現集

自分の中で良くも悪くも響いた言葉集

夏の裁断/島本理生

  大きな刃のついたレバーを持ち上げ、背表紙のところに合わせる。刹那、ふるえた。想像よりもずっと抵抗を手のひらに覚えながら、酔いに任せて引き落とす。

 ざくり、と刃が沈んだ瞬間、下腹部から不本意な欲情にも似た熱が突き上げてきた。

 仔猫や赤ん坊が可愛すぎていじめたくなるときのねじれた愛情に全身の血が沸き立った。

 

  読書のノウハウ本を読むと線を引け、書き込みを恐れるなというような内容が書かれていて、それさえ私は戸惑う。してみたいという気持ちと出来ないという気持ちが拮抗しあって結局、家族も読む可能性が高いと言い訳しながら「線を引かない」という選択をする。

 作家である主人公が本を切断する気持ちはそんな私をあざ笑うように鮮やかで気持ちの悪い描写で息を呑んだ。