心に残った言葉・表現集

自分の中で良くも悪くも響いた言葉集

2018-06-01から1ヶ月間の記事一覧

夏の裁断/島本理生

「カエザルのものはカエザルに返せ、て知ってる?作家だから聖書くらい読んでるよね」 と言った。すぐには意味が分からなかった。 「どうせ時間も労力も費やすなら、せめて、本人に返そうか」 「どういう意味ですか?」 と堪りかねてきいた。彼は澱みなく答…

夏の裁断/島本理生

「母とは少なくとも日本人にとって『許してくれる』存在である。子供のどんな裏切り、子供のどんな非行にたいしても結局は涙をながしながら許してくれる存在である。そして裏切った子供の裏切りよりも、その苦しみを一緒に苦しんでくれる存在である。」(『…

夏の裁断/島本理生

大きな刃のついたレバーを持ち上げ、背表紙のところに合わせる。刹那、ふるえた。想像よりもずっと抵抗を手のひらに覚えながら、酔いに任せて引き落とす。 ざくり、と刃が沈んだ瞬間、下腹部から不本意な欲情にも似た熱が突き上げてきた。 仔猫や赤ん坊が可…

夏の裁断/島本理生

「そうじゃなくて。だって自炊って」 と言いかけて。しょせん母は向こう側の人なのだ、と実感した。自炊と聞いただけで生理的な嫌悪がまったく湧かないなんて、私には信じられなかった。 自炊ということは。 本を、切るのだ。 ばっさり裁断して、データとし…