恋の聖地: そこは、最後の恋に出会う場所。/窪美澄のたゆたうひかり
「夢……見てた」ぼんやりした声で言う。
「おまえ、白いワンピースよく来てただろ。小さなころ。母さんがミシンで縫った。それ着た小さなおまえがそこにいるのかと思った」
そう言いながら、私が来ているワンピースを指さす。水色の薄いストライプが入っているが、まぶしくて父からは見えないのかもしれないと思った。窓にカーテンをゆっくりと引く。父の声はかすれて、話し方もゆっくりだ。今日は憎まれ口も叩かない。
お父さんの死期を感じる一幕。どちらも悟っているのがわかる。父から見たらもういい年した彼女も小さな子どもみたいに感じるときがあるのかもしれない。いやその後の心配聞けばずっと少女のままに感じてるわけではないのはわかるけどある部分ではという話。