心に残った言葉・表現集

自分の中で良くも悪くも響いた言葉集

恋の聖地: そこは、最後の恋に出会う場所。/三浦しをんの聖域の火

 まださきになるかもしれないけれど、いつか私も、胸の火をだれかにそっと分けよう。そのひとが凍えることのないように。安心して夜道を行けるように。

 

 

 ネタバレも甚だしいのでかなりカットしました。でも追記の方に好きな部分全部書き出しました。このシーンがすごく好きです。大切な人を信じようと決めたことも、信じた自分を肯定できたことも、将来を考えられたことも、誰かに今感じた気持ちを分けたいと思えた優しさも。

 このアンソロジー小説は舞台をすごく大切にしてるアンソロジーだけど、中でも舞台を大切にしているし、ここだから描ける物語だった。流石うまいなという意味でも素晴らしかった。

 

【追記】

 菜穂は自分の胸のなかに、再び火が灯ったことを感じていた。いや、それは実は、ずっと消えずにあったのだ。霊火堂で千二百年まえから燃えつづけている火と同じく。ときには埋み火となることも、ときに激しく炎を噴きあげることもあるが、決して消えはしなかった。消えてしまったと、菜穂が勘違いしていただけで。

 菜穂の胸の火を消すような真似を、たとえ死んでも、政信がするはずがない。かつて、菜穂に愛という名の種火を分け与えたのは、政信だったのだから。政信がこの世から姿を消したのちも、火は菜穂をあたため、照らしてくれていた。この三年のあいだも、ずっと。

 それに気づくことができてよかった。

 まださきになるかもしれないけれど、いつか私も、胸の火をだれかにそっと分けよう。そのひとが凍えることのないように。安心して夜道を行けるように。